きゃー旦那が嫁を殴ったーッ!(ツッコミ所はそこかい!)
700HIT・風儀蘭様のキリリクです。お題は「泣くカイちゃん」
ソル&カイが誘拐事件に挑む話。旦那すっかり子守役(坊や限定)
無駄に長くなりましたが「悪夢に魘される」という
サブテーマは何とかクリア…できてるでしょうか?
風儀蘭様、こんな物でスミマセン…;
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暗い暗い森の奥には、怖い怖い魔法使いが住んでいて、
月の無い夜中には、そろりそろりとやってくる。
泣いて眠らぬ悪い子は、魔法使いが食べちゃうぞ。
いい子にしてなきゃ食べちゃうぞ。
「まさか仕事でお前と鉢合わせるなんて。余計な騒ぎは起こしてくれるなよ」
「そりゃこっちの台詞だ。手っ取り早く済ませたかったら邪魔すんじゃねぇ」
月も無い闇夜。夜の森の底に、二つの人影があった。
凄腕の賞金稼ぎ・ソル=バッドガイと、国際警察機構の重鎮・カイ=キスクである。
夜でなくとも暗闇に覆われているような鬱蒼とした暗い森。だが、闇が二人の足取りを阻む枷にはならない。
「ここだな」
カイが視線を向ける先には、朽ちかけの小さな荒屋があった。木の幹に紛れるようにして、森に溶け込むようにして建っている。一見しただけでは見過ごしてしまいそうだ。
「間違いない。連続拉致犯の隠れ家だ」
連続拉致犯──近年、付近の街で幼い子供が姿を消すという事件が相次いでいた。しかも、被害者の数は十を軽く超える。
確かに住民にとっては身近なだけに恐ろしい事件だが、凶悪な犯罪が日常化する殺伐とした世だ、この程度の事なら地元の警察に任せればいい。
しかし、カイが危惧するのは「拉致」の文字に隠された「殺人」の匂い。最初に起きた少女失踪の時期から勘算して、その可能性は十分に考えられた。
(これ以上被害を拡大させる訳にはいかない。今晩中に方を付ける)
カイは拳を握り締めた。
片や、密かに闘志を燃やすカイを横目に、ソルはうんざりとしていた。
坊やが出しゃばってくるぐらいなら、わざわざ手出しする必要はなかった、と。
ソルが今回の件に関わっているのは偶然の成り行きだ。偶々この地方を訪れ手頃な賞金首を漁っている内に狙った獲物がカイと重なっただけのこと。
ただ、この首には奇妙な点が多いのだ。
全体的に見れば大した額ではない賞金首だが、只の拉致犯にしては異常な高値──不審に思ったソルが情報を洗うと、それらが浮き彫りになる。数年に渡って被害が出ているのにも拘らず、首がリストアップされたのは最近になってから。つまり、それまでは何者の仕業であるのか判らず、住民は夜に怯え続けていた。
何の前触れもなく、ある夜に突然、子供が消える。
The child seemed to have vanished into thin air.
失われた東洋の国では「神隠し」とでも呼ばれていただろう。
犯人から身代金を要求された形跡もなく、現時点で全く死体が発見されていない事実も訝しい。だからこそ、なかなか足が付かずに犯人特定が難航していたのだ。
そして、漸く首の居場所を掴んでここまで来てみれば、何故か坊やの姿がある。大方「少年少女連続拉致事件!」と聞き、持ち前の正義感を掲げてしゃしゃり出てきたに違いない。
「犯人はここで子供達を監禁しているかもしれない。人質は決して傷付けるな」
カイの指図に、ソルは「面倒臭ぇな」と肩を竦めた。
気配を殺して小屋に近付く。
そこで二人は感付いた。小屋全体を覆う、法力の流れに。
カイが視線を送る。それを受けたソルが軽く頷いた。
二手に別れ、流れの中の僅かな『澱み』をディテクトする。予想通り、それは外部からの侵入者を排除する為に仕掛けられたものであったが、法術に長けた二人にとってこの程度の術の解除なら造作もない。
そして、流れが完全に拡散したのを確認すると、カイは慎重に突入の機会を窺った。
が、その横をソルが無勝に通り過ぎ──
「ソ……?」
何の躊躇いもなく、戸口を蹴り破った。
「……お前って奴は……」
派手な音を立てて崩れ落ちるドア。カイは頭を抱えた。
「何呆けてやがる、行くぞ」
振り向きもせず、ソルは暗い荒屋の中に消えた。
無謀とは違う、己の実力に対する絶対的な自信が成せる業だ。この男らしさとも言えるのだが、見せ付けられたカイとしては時々自分の行動が馬鹿らしくなってしまう。
小さく溜息をついて、カイもソルの後に続いた。
聖戦が幕を閉じても、罪無き人々を脅かす存在は消えない。
犯罪者と一纏めに呼ばれているが──それは紛れもなく、人間。その狡猾さはギアより性質が悪いとさえ思う。
人類共通の敵に対し、人類の希望として剣を振るう。そんな時代は終わった。
いずれにせよ警察機構の人間が忙しいのは、昔も今も決して喜ばしい事ではない。
一日でも早く、街の人々に穏やかな夜が訪れるよう、この事件は必ず解決させる。今の己はその為に在る。
「妙だな。気配が全く感じられない」
荒屋の内部は狭く、静まり返っていた。
床には瓦落多としか思えないような物が散乱し、埃の被った簡素なベッドは凡そ使われていなさそうであった。照明器具には蜘蛛の巣が掛かっている。とても生活感があるとは言えない。
ここはダミーか……カイは落胆しつつも、どんな証拠品が紛れているかしれない、と一通り物品を調査することにした。ソルは剥がれかけた壁や固い床を調べている。
「こんな童歌を知ってるか?」
手を止めないまま、不意にカイがそんなことを言い出した。
暗い暗い森の奥には、怖い怖い魔法使いが住んでいて、
月の無い夜中には、そろりそろりとやってくる。
泣いて眠らぬ悪い子は、魔法使いが食べちゃうぞ。
いい子にしてなきゃ食べちゃうぞ。
素っ気ない口振りで淡々と歌うカイを、暫くソルは神妙に眺めていたが、やがて、
「童歌か。坊やにはお似合いだな」
と、一笑した。
「……お前はすぐそれだ」
カイは顔を上げ、怒りよりも呆れを強調させて無礼者を睨んだ。しかし、すぐに気を取り直して話を続ける。
「付近の街で古くから歌い継がれているらしいんだ」
元々、夜に子供を寝かし付ける為の作り話だったのだが、今回の件はまさに御伽噺が現実に起こってしまったような出来事で。事実、童話は実際の事件や世間風刺を題材にした物も多い。子供向けだからと言って侮れない。
「で、歌の通り拉致犯はアジトに法術を仕掛けるような法力使いだった、と?」
「いや」
カイは少し厳しい口調で否定する。
「多分それは偶然だ。恐ろしい魔法使いが、本物の法力使いだろうと只の凶悪犯だろうと、大した問題じゃない。本当は同じ人間に違いないけど『普通の』人間からすれば、どちらもイレギュラー……異常者だから」
法力使いも凶悪犯も『一般の』人間にとっては異質の者。畏怖と嫌忌の対象になり得る者だ。
人間とは往々にして排他的な生き物なのだから。
何の感懐も憂いも含まず、極めて事務的に語る若い警官を、男は少し意外そうな目付きで見た。
「お前にしちゃ珍しい事を言う」
このカイという人物から、そんな言葉を聞く日が来るとは。
「どういう意味だ」
「要は手前にとって無害か有害かが判断基準だろ」
結局の所、英雄だとか悪魔だとか、本質がどうであれ自分達の役に立つかどうかの差だ。
「そうだな」
諦念混じりの声で返事すると、カイは作業を再開した。
余計な事は考えない方が良い。雑念は時として命取りになる。
「何、イラついてんだ」
珍しく、ソルの方から口を開いた。
だが、心当たりのないカイには男の意図が察せず、すぐには反応できなかった。
「? 苛付いてなんか──」
自覚ナシか。
何かに憤りと失望を感じた時、却って無感動に皮肉めいた批判を口にする。カイの癖である。
「いや、いい」
男はそれ以上言及してこなかった。単に面倒になっただけだ。
「そういう態度を取られると、怒ってない時でも腹が立つが?」
「……これか」
冷ややかに咎めるカイを露骨に無視して、ソルは部屋の隅の床板を凝視していた。
細やかな抗議がはぐらかされるのは毎度のこと。ここで意地を張っても仕方がないので、カイもソルの傍へ近付く。
「何か見付けたのか?」
「壁は脆いクセに、床がやたら頑丈にできてんだ」
そこには、片手が嵌められる大きさの窪みが二箇所あった。
即ち、犯人の拠点は──
「地下だ」
-To be continued-