【BL系ショートストーリー】
9999HIT・斉木imo様のキリリクです。お題は「ソルに甘えまくるカイ」
ソルがカイの騎士に?高級ホテルは二人の貸切で❤
サブテーマに「ソルを尻に敷くカイちゃん」とのリクエストを頂きましたので、
指図しまくり姫&マイペース騎士の方向です……き、騎士ソル…???
*-*-*-*-*
「何だと……?」
恐らく、その声を聞いた者の十中八九が、本能的な危機を感じてその場から逃げ出したことだろう。
それほど露骨な憤慨が滲んだ、ドスのきいた声だった。
「如何ですかな?」
しかし、猛獣の威嚇(?)にも平然と応対する、豪胆な者がいた。
「悪い条件ではないと思いますが?」
その豪胆な執事は、飽くまでにこやかに交渉を進めようとする。
報酬は悪くない。だが、それとこれとは話が別だ。
睨み合うこと暫し。
「――で、何だって俺なんだ」
一向に引き下がらないベルナルドに、ついにソルの方が観念した。
「用心棒なら、その辺のボディガードにでも依頼すりゃいいだろうが」
殊更深い溜息を吐いて、経緯の説明を求める。
国際警察機構巴里本部所属・カイ=キスクの護衛――これが、ベルナルドを介してカイが提示した、ソルへの依頼であった。
寧ろ要人を護衛する側の人間であるカイが、護衛される立場にあろうとは。それも不自然だったが、その前にソルはハンターだ。ボディガードは基本的に管轄外である。
「カイ様直々の御指名ですぞ。栄誉なことではありませんか」
「んなこたァ訊いてねぇ」
これ以上はぐらかすようなら、この話は聞かなかったことにする。交渉決裂とばかりに、ソルは席を立とうとした。
が、ベルナルドは慌てることなく、こう続ける。
「この件を断られるようでしたら、『あの話』もなかったことにする、とカイ様は仰っておりますが? まあ、それは私の存ずるところではございませんがね」
「………」
渋々、ソルは座り直した。
『あの話』とは、門鑑に関する証書のことだ。往来手形のようなものである。ソルが仕事をする上で度々必要になるものだが、カイのサインは通用範囲がやたら広い。一つあれば何かと便利なので、幾度か世話になっている。今回の件を断れば、少し前にも頼んだ証書の発行を取り消す、とカイは言っているらしい。
しかし、別にカイのサインでなくても良いのだ。カイに依頼するようになったのも最近のことで、今までもそれなりにやってきた(何より、カイが生まれる以前からの生業である)。
交換条件にしてはソル側に不利はない。礼儀には煩いが契約事には比較的ドライなカイのこと、申し出の一つや二つ斥けたところで、特に問題はない――はずなのだが。
腐れ縁だからこそ敢えて言わせてもらうが――ガタガタ文句を言う時よりもあっさり折れる時の方が、坊やは厄介だ。
要するに、後々ウザイ。
「決定権は貴方に」
態とらしく立場の公平さを強調するベルナルド。
ソルは、ここに来て何度目かの溜息を吐いた。
「――坊やに伝えとけ。契約期間の延長はナシだとな」
とにかく、どうしても要求を呑ませたい魂胆はよーっく分かったので、テキトーに引き受けてテキトーにずらかるに限る。
「畏まりました」
当然といったベルナルドの澄まし顔が、いっそ嫌味なくらいだ。あの上司あってこの副官あり、といったところか。
脳裏に浮かぶのは、今ここには居ない当事者の、悪戯好きの子供のような笑顔。
(ったく……あの坊や、何考えてやがる……)
待ち合わせは、郊外のターミナルだった。
遅刻の常習犯宜しくソルが着いた頃には、既にカイは待合室にいた。
「久し振り」
いきなり遅刻の不平から始まると思いきや、青年は明るく笑い掛けてきた。
「直接頼みたかったんだけど都合がつかなくて。来てくれて助かる」
「出張だったのか」
待ち合わせ場所とカイの身形から察するに、大体そんなところだろう。傍らのスーツケースは、随分と使い込まれているようだ。
「うん。まだ暫く帰れそうにない」
そう言いながらも、多忙を苦にしている様子でもなく。若い警官は、至って普段通りだった。
「それで?」
「ここじゃなんだし、近くの店に行こうか」
ソルが今回の依頼について訊こうとする前に、移動を促された。
確かに、こんな人通りと雑音の多い駅で、込み入った話をする訳にもいくまい。取り敢えず場所を変えることにする。
駅前のカフェまで足を運ぶ。特別フォーマルな雰囲気はなく、誰でも気軽に利用できるような開放的な店だった。まだ昼間だからだろうか、外回り中の勤め人などが多く出入りしている。入口から遠い奥のテーブルに空きを見付け、二人はそこに腰を落ち着けた。
「ベルナルドから、大体聞いていると思うけど」
体裁だけ飲み物を注文してから、カイは用談に入った。
「私を、護ってほしい」
ストレートに、一言。
「どうした。頭でも打ったか」
冗談ではなく、率直な感想である。
皆の笑顔は私が護るやら何やら。常日頃から宣っているカイに、これほど似合わない言葉もないかもしれない。
「あのな。真面目に聞け」
カイは不愉快そうに顔を顰めた。どうやら本気らしい。
「命を狙われている」
「――何?」
耳打ちするように小さく告げられた声に、今度はソルが眉根を寄せる。
「お前を狙うたぁ、どんな命知らずだ」
「殴り飛ばしていいか?」
一瞬、殺界が発生したかに見えたのは――気の所為にしておこう。
「私も仕事中だと相手に構っていられないから。近付いてきたら適当に蹴散らしておいてくれ」
「加減はできんぞ」
「ああ、灰も残さなくていい」
それは、生け捕るより余程容易だが……。
カイという人物を敵に回した連中に、何となく同情するソルであった。
「契約は二週間。頼めるか?」
「返事はしただろ」
同じ事を言わせるな。
「……ありがとう」
カイは少し苦笑した。何故か、困ったような顔で。
「さて、そろそろ移動だ。時間がない」
運ばれた紅茶に殆ど口を付けないまま、コートに手を伸ばす。
「早速来やがったか」
「そうじゃない」
察しの悪いボディガードに焦れたカイは、数枚の書類を差し出した。敵方の情報かと受け取ったソルは、その内容に目を剥くことになる。
紙面をびっしりと埋め尽くす条項は、今後二週間分のスケジュールであった。――もとい、凄まじい量だが、よく見ると二日分だ。
何なんだ、この分刻みの過密スケジュールは!
「それ、私の日程。お前もその通りに動いてもらうからな」
「―――」
すでに言葉にならないソルである。
「あ。お前の遅刻も計算内だから」
「……そうかよ」
やはり、この坊やは敵に回すべきじゃない。
半日後。
余裕顔で明日の予定を確認しているカイの傍ら、憔悴しきったソルの姿があった。まるで十年分一気に歳を食ったかのような草臥れ様だ。
実際、このような形でカイと行動を共にしたのは初めてで(聖騎士団員だった頃もカイの指令などまともに聴いた例がなく、いつも独断で動いていた)、まさか坊やの付き合いがここまで疲れるものだとは思ってもみなかった。
「初日は無事終了だな。ご苦労様」
ご苦労様じゃねぇよ、と言い返す気力も、ソルには残されていない。
カイの方は実にけろりとしていて、一日の激務を微塵も感じさせない。人間ここまで回転数を上げて生きられるものなのだろうか。史上最大の謎である。
(ヘヴィだぜ……)
後は宿泊だけだったはず。これ以上は何を言われても断る。いくら金を積まれようと、断るものは断る。
既に夜更け。予約済の宿泊先を目指し、街灯の点る通りに沿って歩く。一応、不審者の気配を探ってはいたが、今のところそれらしい様子はなかった。
やがて闇の中に浮かび上がってきた建築物は、この時代には珍しい高層のホテルであった。カイの話では、暫くここに滞在するとのこと。
高層にして高級。贅沢や派手さを好まないカイが選んだとは俄かに信じ難いが、恐らくその風格を裏付ける優れたセキュリティシステムに目を付けたのだろう。
そこまでして、己の護身に努めるとは。
カイも聖戦を生き抜いた戦士であり、自分の身くらい自分で護れるはず。そうでなくとも、我が身を顧みる前に「剣を失っても盾となって人々を護り抜く」と断言するような奴だ。
この徹底した護身は、些か過剰ではないのか?――数人のドアマンが控える吹抜のエントランスを通り過ぎながら、ソルは違和感を覚えずにはいられなかった。
カイはチェックインを済ませ、支配人らしい男と会話している。そして、待つのにうんざりしてきた頃(2~3分後ぐらい)に戻ってきた。
「待たせたな」
「部屋は」
余計なお喋りは要らない。
端的過ぎるソルの物言いが気に障ったのか、カイの目が据わる。
「ついて来い」
もはや命令調である。くるりと背を向け早足で歩いていく様からして、さすがに怒らせてしまったようだ。
面倒な坊やだ。
今のカイは雇い主なので、一応は大人しく後に続くことにする。
客室の最上階に位置する部屋は予想通りVIPルームで、IDとパスが必要となる専用の通路からしか入れない構造になっていた。警護は全てオート。従業員はおろか、警備員さえ見当たらない。豪奢な装飾が施された部屋は、ソルにとっては大変居心地が悪い。柔らかすぎるソファで手持ち無沙汰に座って(埋もれて)いると、バスローブに身を包んだカイが現れた。
「いつの間に……」
上等な絨毯の上に空のボトルが数本転がっているのを見て、カイは呆れてそう溢した。
「属性は『風』か」
ソルはそれを黙殺する形で、室内を一瞥し、呟く。
「インテリアは無駄に見えるが、法力場を全て計算した配置だ。陣が完成されてる。お前がドアを開閉するだけで、場が動いた」
宿泊施設としてのセキュリティは完璧と言って良い。尤も、普段この部屋を利用するようなVIPとやらが、相応の法力知識を持ち合わせているかどうかは、甚だ疑問であるが。
「私もそれを狙った。派手なのは好きじゃないけど、条件を満たすホテルがここだった」
「監獄だな」
法力という名の「視線」が、常に自分達を監視している。法力場を感知できる者にとって、あまり気分の良いものではない。
「周りの部屋には誰もいない。下の階も、上のラウンジも」
寧ろ独房かも、とカイは苦笑する。
「ルームサービスも一切なし。殆ど貸切だ」
つまり、自分達は完全に孤立している。――そこまでするか。
何事も妥協しない性格なのは前々から分かっているが、付き合わされる方は、ひたすら窮屈で疲れる。
「こら、どこへ行く」
徐に立ち上がりドアへ向かうソルを、当然カイは引き留める。
「るせぇな……どこだっていいだろ」
目の前で煙草を吸えば、怒り出すのは明らかで。出て行こうとするだけでも、ありがたく思ってほしいものだ。
「良い訳ないだろう。何の為のボディガードだ」
「気配がありゃすぐ戻る」
それに、この「視線だらけの部屋」にいる限り、少なくとも坊やは安全だろう。
ところが。
「一緒にいろ、ソル」
カイはそれだけ言うと、唇を引き結んだ。
命令口調なのに、どこか懇願するような眼差しを向けられて。この、置き去りにされた子供のような。捨てられた子犬のような。
――だから、苦手なのだ。
「……分ァったよ。出てかねぇから、さっさと寝やがれ」
吹かす気も失せて、元のソファに転がった。
「おやすみ」
機嫌を直したらしい姫君はにっこりと微笑む。それだけで、さっさと寝室に引っ込んでしまった。
あんな目を見せておいて、こっちが折れたと分かれば薄情なものだ――坊やの手口にまんまと引っ掛かったのはこっちだが。
「マジかよ……」
ある意味、聖騎士団以上の監獄。
これが、あと二週間続くというのだ。
契約期限が切れるのと自分がキレるのと、果たしてどっちが早いだろうか――
「カイ様、そこの人は?」
連れ添って幾日か経ったが、カイが誰かに会う都度、そんな声を掛けられることが続いていた。
「用心棒です。お気になさらず」
カイは平然と応える。どの相手にも同じ様に。
それで本当に納得する奴などまずいないだろうが、誰も何も言及してこないまま話が進むあたり、ここが利益社会(Gesellschaft)の一部だと思い知らされる。
同じ制服。同じ規則。至る所に時計が在り、一定時刻に鐘が鳴る。組織や縦の人間関係に凡そ無縁なソルにとって、この社会の構成員はとても奇妙に映る。物見遊山のつもりで見物している分には興味も向くが、自分が一員になりたいとは思わない。
そして今日は、権威ある人物の講演会だとか。カイも会場の警備に駆り出されることとなり、必然的にソルも同行する破目になった。
もう、誰が誰の護衛をしているのだか判らなくなってきた。
適度な暗さの照明と適温の空調、だらだらと締まりのない講演が、心地よい眠気を誘う。表で昼寝でもしたい気分だが、カイの傍を外す訳にもいかず。それなら壁に凭れて寝てしまおうかと考える。
突然、客席が騒がしくなった。
参加者の一人が暴れ始めたらしい。緩慢な空気が、一瞬にして緊迫したものに変わる。
「チッ」
ソルは即座に動いた。煩わしさもあるが、退屈凌ぎくらいにはなりそうだ。
「手を出すな」
だが、カイがそれを制する。
「私が行く。お前は私だけを護ってくれたらいい」
そう告げて前に出る。
ならば、カイの身に危険が及ばない内は座視するまで。ここは坊やのお手並み拝見といこう。
暴れ出した男は演説者に向かって罵言を浴びせ続け、手近にあった物を振り回し、片っ端から壇上へ投げ付けていた。
「やめなさい!」
警備員が駆け付けて制止を呼び掛けるが、一向に応じようとしない。終いにはアイスピックのような物を構え、演壇目掛けて突っ込んだ。椅子やフェンスが次々に倒れる。観客が逃げ惑う。出入口付近は異常な混雑となる。場内はパニック状態になった。
混乱した弁士や大勢の来場者を避難させるのはなかなか骨の折れることだ。騒然とした場内で、カイは連携もままならない警備員を取り纏め、闇雲に走る観客を誘導した。そして人波を何とか逆流し、ついに犯人を取り押さえるに至った。近付いてしまえば捕らえるのは容易い。
それを、ソルは黙って傍観していた。
組み敷かれている坊やではなく、相手を組み敷いている坊やを拝めるとは。
「放せ! あの野郎だけはブッ殺す! 放せぇ!!」
男が激しくもがくものの、この細腕のどこにこんな力があるのか、カイはビクともしない。
野郎がムカツクんなら、講演会なんざ端から来なけりゃいい――ソルはそう思うが、とにかく演説者に余程の恨みがあるのだろう。狂ったように叫び続ける男に、どんな事情があるかは知らない。何にせよ傍迷惑な話だ。
「お前らみたいな何不自由なく暮らしてる連中に、俺らの苦労が解るはずな――」
「いい加減にしなさい!」
カイの鋭い一声。
男は怯み、思わず口を噤んだ。
「これ以上は無駄です。もう、止めなさい」
捕らわれた腕は振り解けない。周囲は警官が取り囲んでいる。もう、終わりだ。
「う、煩い! お前に何が解る!」
往生際悪く口答えする男。ここまで騒ぎになった今、もはや退っ引きならず自暴自棄に陥っているらしい。大抵こんな奴が居直り強盗になる。
「よく考えてごらんなさい。貴方はまだ何もしていませんよ」
カイは穏やかに諭した。仮に弁士への殺意があったとしても、今なら未遂だと。
まだ、引き返せる。やり直せる。
「罪に問われることは避けられません。でも、今ならまだ軽く済むでしょう。法は貴方を見捨てたりしませんから」
宥めるような、カイの言葉。
「自首なさい」
それきり、男は嘘のように大人しくなった。
騒動は無事解決。講演会は中止。後片付に追われる警備員達。彼らの間ではカイへの称賛や労いが飛び交っていた。理想的な落着と言える。
「………」
だが、ソルは釈然としなかった。
つまらないハプニング劇との遭遇にうんざりした訳ではない。そんなものは適当に見過ごせば良いだけのこと。
ただ、何かが気に入らなかった。
その日も、ホテルに着いたのは夜更けであった。
部屋に戻って明日の打ち合わせ(殆ど筆記で、確認後処分)するのには、そろそろ慣れてきた。が、今宵は何故か、微妙に重い空気が流れていた。
いつもに増して仏頂面のソル。それを察し、困惑を隠せないカイ。
「ソル……」
間の悪さに耐え兼ね、その名を呼ぶ。
「何か用か」
用がないなら話し掛けるな。
言い捨てるようなソルの返事に、カイは押し黙るしかない。
「……何でもない」
露骨な無視で返されたなら、まだ咎めることもできたろうに。
秩序・調和を重んじるカイは、それらを乱す者を徹底的に矯正しようとする性質だ。しかし、正義や規律を盾にしないと断固とした態度に出られないきらいもある。今この場で「何も悪い事をしていない」ソルに対してカイが「何も言えない」のは、その表れといえよう。換言するなら、法に照らし合わせさえすれば何事も平穏無事に解決するという発想。
それが、気に入らない。
そう、今日の事件でも。
「お前は甘い」
低く、呟く。
脈絡なく指摘され、カイは目を瞬かせた。何のことを言われているのか理解していないようだ。
「もしかして――昼間の事か?」
カイにとって思い当たる節があるならそこしかなかった。
ソルは返答しない。それが肯定の意味でもある。
「何か問題でも?」
飽くまで白を切るカイに、ソルの苛立ちが臨界に達する。
「あんなコケ威しで通用すると思ってんのか」
今回は偶然、説得という手段が上手くいったに過ぎない。
何が気に入らなかったかと言えば、コイツの甘さだ。考えの甘い坊やとは見ていたが、ここまで浅はかだとは。
「相手は人間なんだ。大抵は話せば解る」
私の任務は法と秩序の維持だ。相手を傷付けることじゃない。――カイはそう主張する。
「それが甘いっつってんだ」
これで殺し屋とも渡り合っているのなら、今までの相手は素人か馬鹿だったとしか思えない。
「肩を外すぐらいの度胸もねぇ奴が吠えたところで、犬死にすんのがオチだろうが」
実際、あのような素人に扮したプロも存在するのだ。あんな遣り方では、油断した隙に一撃で殺られるだろう。まさか、ここで「ソル(ボディガード)がついている」とは言わせまい。
カイは、小さく息を吐いた。
「――私は捨て駒だよ。昔から」
そうでなければ「飾り物」だ。
人目に付くポジションに立つのも、己が役割の内。見世物にされ、一番最初に標的にされ、消費されていく。
「使い捨てにしては、長持ちしてると思うけど?」
その深い碧玉の瞳が少し伏せられ、長い金の睫がそれを庇うように揺れる。酷く整ったそれら。
「マジで言ってんのか」
「冗談に聞こえたか?」
瞬間、ソルはカイの胸座を掴んでいた。
「………」
カイは抵抗しなかった。
無反応のまま、真っ直ぐソルを見返す。そこに怯えや戸惑いはなく、眼差しは酷く冷めたものだった。
(――そういうことか)
これで得心がいった。湧き上がった憤怒も、急速に引いて消え失せる。
所詮コイツは、タダの人形だったということか。
「勝手にしやがれ」
乱暴にカイを突き放す。
馬鹿馬鹿しい。人形相手に何を期待していたんだか。
「ソル!」
投げ掛けられる声にも取り合わず、完全に無視して部屋を出た。
-To be continued-