【BL系ショートストーリー】
9999HIT・斉木imo様のキリリクです。お題は「ソルに甘えまくるカイ」
ソルがカイの騎士に?高級ホテルは二人の貸切で❤
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淡々と速報を告げるラジオに耳を傾けていたカイは、呆れたように溜息を一つ。
「……やり過ぎだ、お前は」
すぐ脇で椅子に腰掛けているソルを非難する。
ここはホテルの一室――ではなく、街外れの診療所だった。負傷したカイの為に立ち寄ったのだ。
「加減はできんと言っただろ」
結局あのホテルは、上半分が完全に吹っ飛んだらしい。
あれだけの爆発にも拘らず死者が出なかったのは奇跡だと、老舗ホテルで起こった爆破は過激派の無差別テロだと、世間では実しやかに囁かれている。だが、カイの名や機械人形に関する情報は、一切上ってこなかった。恐らくどこかで情報操作がなされている。
被害を一手に引き受けた怪我人は、確かにここにいるのだが。
カイは落下の際、風属性のセキュリティシステムに割り込み命令を施した。摩擦抵抗を最高値に設定し、浮力を得て、地面との激突を避けたのだ。
しかし、即死レベルの衝突は免れたものの、それでも無傷という訳にはいかなかった。外傷こそ少ないが、衝撃によるダメージが大きい。暫くは絶対安静である。
あれから。連中を片付けたソルは、カイを捜した。
彼はすぐに見付かったけれど。
横たわったまま全く動かないカイを見て、本当に死んでいるのかと思った。
「無茶しやがる……」
息があることを確認し、安堵の溜息を洩らす。
さて、安全な場所へどう運ぶか。下手に動かすのはまずい。
「呼ばれて~~~飛び出て!」
そこに突然、謎の闇医者が出現。
「ハイハイ、ああ、これは重傷ですねぇ」
早口で喋りながらも、もう医者の手は動いていた。呆気にとられるソルの手前、白衣の中からあり得ない大きさの薬箱を取り出し、手際良く応急手当を始める。
一通り処置が完了した頃には、カイの四肢は包帯と添木で固定されていた。
「念の為、薬を出しましょう」
「断る」
間髪入れず、ソル。
処置の腕は認めるが、いきなり現れた怪しげな風貌の人物(人?)を信用しろという方が無理である。
「まあまあ。薬は一日三回、食後三十分以内に服用して下さいね~」
が、問答無用で小さな白い紙袋を手渡してきた。勢いで受け取ってしまったソルに「次の患者が待ってるのでな!」と宣言しつつ、その医者は石畳の街路をクロールで(物理的に不可能なはず?)泳ぎ去っていった。
そんな経緯で、カイは無事に意識を取り戻したのだった。
「で、何だって連中に狙われた?」
診療所に移って数日。カイも落ち着いてきたようなので、ソルは改めて問い質した。
「ああ、前にも奴らが暴れたことがあっただろう。それが切欠で、少し詮索してやったんだ」
案外あっさりと答えが返ってくる。
カイに探られていると知った連中は、彼を消そうと企んだ。
結果は見ての通り。
だが、黒幕は未だ野放し状態である。水面下の攻防は今後も続くだろう。
「コピーされたのが、そんなにムカついたのか」
訊くと、カイは険しい顔をした。
厭わしく思うのは尤もであろう。量産されることで個のレーゾンデートルが失われたという事実は、カイに気が狂いそうなほどの衝撃を与えたに違いない。
「……私の真似をしたければ、勝手にすればいい」
吐き捨てるように呟く。
「でも……罪もない人々を巻き込んで傷付けるのは、許せない」
言葉には、静かだが激しい憤りがあった。
なるほど。坊やらしい言い分だ。
ただ――
「それで首突っ込んで怪我してりゃあな」
つくづく無謀だと、ソルは思う。
カイに大人しくしてろ言っても無駄かもしれないが、傍目からすれば本当に危なっかしい。
「相変わらず、生傷の絶えねぇ坊やだ」
力なくシーツの上に置かれている手に、ソルは自分の手を重ねる。
彼の手にはいつも、包帯が巻かれているような気がする。
窮する者がいれば手を差し伸べ、事が起これば即行で駆け付ける。常に周囲へ配慮し、被害を最小限に抑えて、平和的解決を目指す。いつでも。己がどんな状態でも。
無鉄砲で考えの甘い坊やだが、それが長所でもある。
だが、彼が護ろうとしている「みんな」とやらの一体どれだけが、差し伸べるカイの手に傷が絶えないことに気付いているのだろうか――?
己の身を顧みないとはいえ、最終的には生き延びて次の行動に移すことを優先させるようなので、自棄とも言えない。自己防衛は飽くまで護るべき者の盾であり続ける一環だ――そう徹底しているらしい。
だから、これだけは気になった。
「……死ぬ気、だったのか」
後は頼むと言った、あの硝子のような微笑み。
それは、終わりを告げる鐘にも似ていた。
己の役目はここまでだ。もう、必要ない。――そう聞こえた。
「―――」
疑問を受け、カイは驚いたように目を見開いたけれど。
「……そんな安っぽい戦い方はしないよ」
そう言って、苦笑した。
「私はその場その場で、私の出来る限りのことをやっているだけだ」
何も特別なことはしてない、と。
ソルの能力を信用し、敵を殲滅させる為に。あるいは、連中のデータベースを混乱させるような情報を与える為に。あの時そう判断しただけで、決して死ぬつもりではなかった。それは本音であろうが。
「現に私はこうして、生きてる」
カイは少し顔を逸らし、遠くを見るような眼差しで天井を仰いだ。
「元々奴らは、特に私の地位や能力を求めた訳じゃないし、オリジナルの生死を問題視してる訳でもない。ただ手足となる駒を欲しただけだ」
口振に迷いはなく、言葉は冷静に現実を見つめていた。
――なのに何故、そんな思い詰めた顔をする?
「新しく設計するよりもコピーの方が、開発期間もコストも抑えられる。それで、制御が容易くデータも集め易い私をモデルにしたんだろう」
塞き止めていた何かが溢れ出すように、カイは言い募る。
それは彼にとって暴言でしかないというのに。
「一応、本人は今も生きてるからな。データ更新はいつでも可能だ」
己に向けられる、刃の言葉。一つ一つ、吐き出す度に、肺腑を抉るような痛みを感じているはずなのに。それでもカイは平静さを失わなかった。
惨い現実も、目を逸らさずに受け止める。その覚悟のあまり、傷付き悲鳴を上げる己の心は置き去りにされて。
カイは尚も続けた。
「最新データに加え、弱点を補正するプログラムを組み込めば、私ももう対処できないかも……――ッツ!」
不意に途切れる声。
手を握るソルが力を込めたのだ。癒えていない傷に更なる激痛が走り、カイは小さく呻いた。
「……もう、よせ」
静かに、カイへ。
その碧い瞳が深く潤んだのは、怪我の痛みの所為ばかりではない。
「痛いか?」
カイは首を横に振る。
「……平気。何ともない……」
「誤魔化すな」
鋭く切り返すソル。カイは言葉を失う。
「………」
もう一度、カイはかぶりを振る。そして、真摯な瞳で訴える。「それ以上は言わないで」と。
それを暴いてしまえば、肯定してしまえば、盾や駒としての価値を失ってしまう――唯一の、己の価値を。
このような形でしか、この場に己を繋ぎ止めておくことができないから、どうか。
痛ましいほど、それは切実な思いであった。
「……おいおい……、こっちは虐めてるワケじゃねぇんだ。んな目ぇするな」
黙り込んだカイに、ソルは当惑してしまう。ややあって、大きな溜息となる。
坊やを余計に追い詰める気はないのだ。ただ、心の奥の小さな叫びをどこまで自覚しているか、である。
どうやらまだ、己の本来の心を受け入れるには早いらしい。
だが、焦らなくてもいい。
「周りを分析する目があるんなら、ちったぁ内側にも向けてみるんだな」
そう諭しつつ。軽く持ち上げたカイの手の甲に、そっとキスを落とす。
「な――」
途端、カイは口を開けたままフリーズした。
「な、な、何す……!!?」
ほぼ同時。
付けっ放しだったラジオから、各地の気象情報が流れてきた。場違いなくらいの軽快な音楽と共に。
「晴れだとよ」
口端を吊り上げて笑んでみせるソル。
「……快晴だといいな」
カイもやっと、晴れやかな笑顔を浮かべた。
そうして少しの間、ラジオを聞き流した。
「契約、今日までだな」
しみじみと、カイ。
「そうだったか」
二週間という期間が長かったのか短かったのか、ソルには判断し兼ねる。あっという間に過ぎ去った気もするが、ターミナルでカイと待ち合わせたのは随分遠い日のような気もする。
取り合えず、色々あった。
「お前に頼まれた証書、指定のギルドに届けてあるから」
後で確かめておいてくれ、と言われ――そういえば。カイに証書の発行を頼んだことなど、すっかり忘れていた。
「ああ、助かる」
しかし実のところ、ソルは護るべきはずのカイに怪我を負わせている。カイはソルの依頼に応えたとのことだが、ソルの方は失敗している。
これは大きな借りができたのかもしれない。
怪我の介抱は契約内として、その後も暫くは優先的に事務手続等の代行を頼むことになりそうだ。接点さえあれば、またごちゃごちゃと注文を付けてくるだろう。そんな坊やの我侭に付き合うくらいの余裕はある。
「これからも、世話になる」
ソルの、その一言で。
微笑んでいたカイの相貌が、みるみる崩れていって。
「……あんまり……手を掛けさせるなよ……」
こっちも忙しいんだから。
泣き出したカイを、ソルは黙って宥め続けた。髪を撫で、溢れ零れる涙を拭って。
再び、晴天のような笑顔が戻るまで。
ふと思い出した。あの時、あの医者が。
「彼が落ち着くまでは、傍にいてあげて下さいよ?」
こんなことを言っていた。
「目覚めた時に独りだと何かと心細いでしょうからね~。――特に、彼の場合は」
内緒話でもするように、人差し指を口(と思われる位置)で立てる。
そんな親しげに語られても、困る。
「余計な世話だ」
腰に手を当て一笑するソルを、医者は満足そうに眺めて頷いた。
すぐ怒るくせに、悲しいとか苦しいとか決して口にしない、何とも強情な姫君なので。
せめて胸の内を素直に曝け出せるようになるまで、まだまだ騎士役は引退できそうにない。
漠然と、そう考えるソルであった。
-END-